スキャロップ加工を施したギターに、興味があるギタリストは沢山いると思います。
スキャロップ加工を施したギターは「弦高が高くても軽く押さえるだけで音が鳴る。」とか「ギターソロで速弾きが簡単にできる。」と言われています。
今回はスキャロップ加工を施したギターの弦の押さえ方や、メリットとデメリットを詳しく解説していきたいと思います。
まずはスキャロップという加工についてから始めます。
ギタースキャロップ加工とは
スキャロップ加工はネックの指板(フレットとフレットの間)を、以下の写真のように削ったものです。
スキャロップ加工には、様々な削り方があります。
全ての指板を削ったものもあれば、10フレットや12フレット以降を削ったもの、24フレットのみを削ったものなどギタリストにより様々です。
削る深さも人により異なります。全フレットを深く削る場合もあれば、ローフレットは浅く、ハイフレットにいくにつれ深くす削る場合もあります。
また全フレットを僅かに削る「ハーフスキャロップ」という削り方もあります。
この加工をする目的は、指板に指が当たらないようにして、スムーズなベンドやヴィブラートをかけるためです。
続いては、このように指板を削るスキャロップ加工には、どのようなメリットとデメリットがあるかを解説していきます。
スキャロップ加工のメリットとデメリット
冒頭にも書きました通り、スキャロップ加工のメリットは「弦高が高くても軽く押さえるだけで音が鳴る。」や「ギターソロで速弾きが簡単にできる。」というものがあります。
しかし、実際このようなメリットはありません。
楽器店のスキャロップ加工を施したギターの広告にも、このようなスキャロップ加工のメリットが書かれていますが、これは間違いです。
これらの間違いは、スキャロップ加工を施したギターを使用しているギタリストの殆どが、スピーディーなギターソロを弾く、速弾きギタリストであることから生まれた噂です。
後程、解説しますがスキャロップ加工を施したギターは、確かに軽く押さえなければいけませんが、それにはまた別な意味があります。
スキャロップ加工のメリット
指板を削ることで、指板に指が当たらないためベンド(チョーキング)やヴィブラートがかけやすくなります。
これがスキャロップ加工をする本来の目的です。
指板を削っているため、ノーマルなギターには出せない独特なトーンも魅力です。
そしてスキャロップ加工をすると、弦を弾いてから音が鳴るまでの立ち上がり(レスポンス)が驚くほど速くなります。
この3つがスキャロップ加工を施したギターを使用するメリットです。
スキャロップ加工のデメリット
スキャロップ指板は、少しでも力を入れて弦を押さえると、削った溝に弦が喰い込み音程がズレてしまいます。
これは厳密にはベンド状態(チョーキング状態)になるためです。
また弦を4本以上、押さえるのコードを弾く時には不要な力が入り、正確な音程を保つことが難しくなります。
そして指板を削っているためネックの強度が無くなり、すぐにネックが反ってしまうのもデメリットの1つです。
フレット交換の際には、指板を削る作業も必要になるため維持費もかかります。
フレット交換を繰り返すと、最終的にはネックが使い物にならなくなり(指板が無くなり)指板の張り替えか、ネックの交換が必要になります。
スキャロップ加工の魅力
スキャロップ加工のメリットとデメリットを解説してみましたが、デメリットの方が多いことがお分かりになったと思います。
しかし、指板に指が当たらないからこそ出せる、ベンドやヴィブラートの変幻自在なニュアンスは大きな魅力です。
揺れ幅の大きいヴィブラートも指板の抵抗が無いので簡単にかけることが可能です。
またスキャロップ加工にはジャンボ・フレットという大きなフレットを打つことが多いため、弦高が高くても押さえやすくなります。
これによりハリとヌケの良いサウンドを出すことが可能になります。
押さえ方のコツ
既に解説しました通り、少しの力でも音程が狂ってしまうスキャロップ加工を施したギターは、弦を軽く押さえなければいけません。
弦を押さえる時は、必ずフレットの真上を押さえるのが基本でありコツになります。
こうすることで弦が溝に喰い込むのを防止し、更にギター本体を鳴らすことができます。
コードの押さえ方
スキャロップ加工をしたギターで4本以上の弦を押さえるコードを弾く場合には、手の構造上どうしても、どこかの指に不要な力が入ります。
それによりスキャロップの溝に弦が喰い込んだり、弦を引っ張ってしまい音程がズレてしまいます。
この対処法はコードにもヴィブラートをかけてしまい、ズレた音程を揺れで誤魔化してしまうことです。
誤魔化しとは言え、これはスキャロップ加工を施したギターを弾く際の大切なテクニックの1つでもあります。
スキャロップ加工を施したギターを使用するギタリストが、コードにもヴィブラートをかける理由は音程のズレに対処するためです。
スキャロップ加工を利用したヴィブラート
スキャロップ加工を施したギターは軽く押さえないと、弦が溝に喰い込み音程がズレてしまいますが、これを利用したヴィブラートがあります。
単音を伸ばす時に、敢えてスキャロップした指板の溝に弦を押し込むことを繰り返して音を揺らします。
このようにするとノーマルな指板には決して出すことができない、独特な揺れを表現することが可能になります。
フローティング(軽く浮かせた)させたブリッジと組み合わせて使うことで、本来ギターでは不可能な、音程を上下に揺らすヴィブラートをかけることもできます。
- スキャロップ指板は軽いタッチで押さえる。
- フレットの真上を押さえる。
- コード弾きにもヴィブラートをかける。
- 弦をスキャロップの溝に押し込むことで、独特のヴィブラートが可能。
スキャロップ加工をしたギターは、これらのことをに注意して演奏してみて下さい。
メンテナンスと管理
スキャロップ加工は指板を削ってしまうので、ネックの強度が落ちネックがすぐに反ります。
これは避けることができませんので、できるだけ湿気を避けるように管理することが大切です。
またスキャロップ加工していなくても、ギターは演奏していると必ずフレットが減り打ち替えが必要になります。
その際にスキャロップ加工を施したギターは、指板を削る作業も必要になります。
これを繰り返すと当然、指板は減っていきますので最終的には指板が無くなってしまいます。
この場合は指板の張り替えかネックの交換をしなければなりません。
このようにスキャロップ加工を施したギターは、維持費がかかるというデメリットもあります。
個人的にはスキャロップと似た効果が出せる、スーパー・ジャンボ・フレット(特大サイズのフレット)を使用するのも良いと思います。
これを使用すると指板に指が当たりませんので、スキャロップ加工と効果は同じですし、音程もスキャロップ加工するよりは安定します。
まとめ
テクニカルなギタリスト御用達のスキャロップ加工ですが、この加工の利点はテクニカルな速弾きをするためではなく、スムーズなベンドとヴィブラートのためです。
そして指板を削ることで可能になる音の立ち上がりの速さと、独特のトーンも魅力です。
しかし演奏をすることが非常に難しく、維持費がかかるデメリットもあります。
特に演奏面では使いこなせば素晴らしいサウンドとフィーリングを出せますが、それをするには相当な練習が必要です。
この記事をスキャロップ加工を施したギターを演奏する際の参考にしてみて下さい。