津軽三味線という言葉には2つの意味があります。
まず1つは、津軽地方で成立した三味線の伝統音楽のジャンルのことです。
元々、津軽三味線は盲人芸でしたので譜面は無く、演奏は即興演奏によるものなので毎回、演奏の内容が異なります。
この毎回、異なる内容の即興演奏が津軽三味線の最大の魅力でもあります。
もう1つの津軽三味線という言葉の意味は、三味線本体の種類を指すものです。
三味線には太棹三味線(津軽三味線)、中棹三味線、細棹三味線、三線(沖縄の三味線)など様々な種類が存在します。
今回は津軽三味線を使用した、津軽地方の伝統音楽(津軽三味線)の奏法を、初心者にも分かりやすく、簡単に解説をしていきたいと思います。
まずは津軽三味線の演奏に必要な物から始めます。
津軽三味線の演奏に必要な物
- 楽器本体
- 撥
- 指かけ
- 調音器
この4つが演奏する際に必要になります。
津軽三味線(楽器本体)
津軽三味線を演奏する際には、太棹三味線と呼ばれる種類の三味線を使用します。
全体的に本体が大きく、深く重みのある音色で大音量で演奏することができます。
糸を撥で弾くというよりも、撥で叩くように演奏します。
太棹三味線は津軽三味線の演奏の他にも浪曲、義太夫などの演奏に使用されています。
※津軽三味線の演奏は、必ずしも太棹三味線を使用しなければならない決まりはなく、中棹三味線や小棹三味線を使用することもあります。
撥
撥にはプラスティック、木材、鼈甲、象牙など様々な素材のものがあります。
津軽三味線ではプラスティックか鼈甲の撥が使用されることが多いです。
指かけ
指かけは左手の親指と人差し指にかけて使用します。
指かけを使用することにより、左手の運指がスムーズになります。
調音器
三味線をチューニングするための調音器には調子笛、音叉、三味線専用チューナーがあります。
調子笛や音叉でチューニングをするには、音感が必要になり非常に難しいので、初心者は三味線専用のチューナーの使用をおすすめします。
津軽三味線を演奏する基本姿勢
正座の場合は、親指を重ねてきちんと座って背筋を伸ばします。
椅子の場合は、ひじ掛けの無いもので、高さは踵かかとが両足付くタイプの椅子を選びましょう。
背もたれのある椅子でも良いですが、少し浅く腰かけて背もたれに背中は付けないようにし、背筋は伸ばします。
楽器は右膝に乗せ、左手で棹を斜めに持ちます。
弾き方
三味線の演奏は、絃を撥で弾いて音を出します。
津軽三味線の場合は、絃を弾くというよりも絃を叩くイメージで演奏します。
撥の使い方
無理に撥に力を入れたりはせず、撥の重さを利用して弾くと良い音が出ます。
最初は開放弦を弾くことから始め、慣れてきたら絃を1本ずつ弾いてみます。
出来るだけ絃を見ないで、正面を向いて弾けるように練習すると、自然と姿勢も良くなり上達も早くなります。
絃の押さえ方
三味線は、左手で絃を押さえて音程を作っていきます。
三味線の絃は伸びて音程が変わりやすいので、きちんと勘所を押さえても、正確な音程が出ないことも多々あります。
常に音に注意を向けながら、勘所を移動させる技術が必要です。
勘所を押さえる時に、注意しなければならないのは指の使い方です。指の腹で押さえると良い音は出ません。
第一関節まで曲げて、爪と指の間で押さえると音が響いて良い音となります
練習方法
津軽三味線の奏法は、三味線教室などで師範からの口伝により身に付けるものです。
これは自宅で気軽に津軽三味線を演奏したい方にとっては、少しばかり敷居が高く感じられるかもしれません。
そこで自宅で気軽に津軽三味線が演奏できるようになるコツを、初心者の方にも当ブログオリジナルで分かりやすく解説してみたいと思います。
即興演奏とは
津軽三味線の最大の魅力は、スピーディーで激しい即興演奏です。
津軽三味線に限らず即興演奏は、曲のキー(調)に合わせたスケール(音階)を駆使して演奏をすることが基本です。
このスケールを使った演奏を、口伝という独特の方法で教わるのが津軽三味線です。
独学の場合は、津軽三味線のスケールを理解する必要があります。
スケールには7音構成のメジャー・スケールやマイナー・スケール、5音構成のペンタトニック・スケールなど様々な種類が存在します。
スケールには日本音階(5音構成)と呼ばれるものもあり、中でも雅楽で使われる「四七抜き音階」や、俗楽で使われる「二六抜き音階」が代表的な日本音階です。
津軽三味線の演奏はスケールを使って行いますが、どのようなスケールを使うのかを詳しく解説していきます。
津軽三味線の音階
津軽三味線は四七抜き音階を使って演奏するというのが定説です。
しかし、個人的に分析した結果、確かに津軽三味線は日本音階ではありますが、それだけではないという結論に行き着きました。
少しばかり難しい理論的な話になりますが、定説通りに四七抜き音階だけを使って、あらゆるパターンの即興演奏を試してみても、津軽三味線独特の雰囲気を出すことができません。
四七抜き音階だけですと、演歌のような雰囲気になってしまいます。
津軽三味線の演奏の音を拾い、5線譜に書き起こし分析してみたところ、日本音階の他に、スペイン音楽や海外の民族音楽で多用されるスケールを使用していることが分かりました。
- スパニッシュ・スケール
- フリジアン・スケール
- ハーモニックマイナー・パーフェクト5thビロウ
日本音階の他に、この3つのスケールを使うことで、津軽三味線の独特の雰囲気を出すことができます。
各スケールの構成音は以下の通りです。
※構成音はドを主音にしたものです。
四七抜き音階
ド・レ・ミ・ソ・ラ
ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シの7音階から4音目のファも7音目のシを抜いた5音階です。
スパニッシュ・スケール
ド・レ♭・ミ♭・ミ・ファ・ソ・ラ♭・シ♭
スパニッシュ・スケールは特殊なスケールで、8音構成になっています。
フリジアン・スケール
ド・レ♭・ミ♭・ファ・ソ・ラ♭・シ♭
フリジアン・スケールは、中近東風のミステリアスでエキゾチックな響きが特徴のスケールです。
ハーモニックマイナー・パーフェクト5thビロウ
ド・レ♭・ミ・ファ・ソ・ラ♭・シ♭
別名フリジアン・ドミナント・スケールとも呼ばれており、クラシック音楽でもよく使われています。
津軽三味線は、これらのスケールを使い演奏されています。
2/4拍子のリズムを取りながら、これらのスケールを思うままに鳴らしてみると、津軽三味線独特の雰囲気を出すことができますので是非、試してみて下さい。
即興演奏のコツ
即興演奏をするには、スケールなどの基本的な知識が必要ですが、それさえ覚えてしまえば決して難しいものではありません。
即興演奏のコツは、1〜2小節単位の短いフレーズの引き出しを増やすことです。
好きな三味線奏者のフレーズを拝借し、自分が弾きやすいようにアレンジしても良いですし、1から自分なりのフレーズを作っても良いです。
即興演奏をする場合は、短いフレーズを繋ぎ合わせることから始めると良いです。
そして即興演奏とは言え、ある程度の計算や下準備をしている奏者が殆どです。
どう聴いても即興で弾いたようなフレーズを予め作っておき、披露することもよくあります。
普段の練習に即興演奏のフレーズ作りも取り入れてみて下さい。
まとめ
津軽三味線は敷居が高い楽器と思われがちですし、口伝という独特の方法で身に付けるものなので、詳しい教材も非常に少ないのが現実です。
詳細不明な部分が非常に多い津軽三味線ですが、視点を変えて西洋音楽理論を駆使して分析してみると、意外と簡単に理解することができます。
音楽や楽器は基本さえ押さえておけば、あとは自分なりの解釈で、楽しく自由に演奏して良いものです。
この記事を津軽三味線を演奏する時の参考にしてみて下さい。