三味線は元々は中国の三弦という楽器が、戦国時代に琉球へ伝来し、更に改良を重ねて現在の形になりました。
一般的には三味線と呼びますが、沖縄では三線(サンシン)と呼ばれています。
三味線の楽譜には文化譜、家庭式譜(地歌譜)など数多くの記譜法の異なる楽譜があります。
今回は三味線初心者の方にも分かりやすく、三味線の譜面の読み方や、各譜面の長所と短所を解説していきます。
では津軽三味線の楽譜と沖縄三味線の楽譜の違いから始めたいと思います。
津軽三味線の楽譜と沖縄三味線の楽譜の違い
まず津軽三味線の楽譜から解説を始めます。
津軽三味線の楽譜には、いくつかの種類(記譜法)があります。
文化譜
引用元:じょんからドットネット
文化譜は大正時代に考案された楽譜です。民謡や俗曲など様々な分野でよく使われており、三味線の楽譜の中では最も普及しているものです。
家庭式譜
引用元:じょんからドットネット
家庭式譜は縦書き枠式とも呼ばれ、地歌等でよく使われています。明治時代に考案された楽譜で、箏との合奏に向いています。
引用元:じょんからドットネット
研精会譜は大正時代に考案された楽譜です。長唄等でよく使われています。西洋音階のドレミファソラシをそのまま数字に置き換えた縦書きの楽譜です。
文化譜と家庭式譜が勘所譜(ポジション譜)であるのに対し、研精会譜は音階譜でなので、チューニングを変えても譜面を修正する必要がありません。
沖縄三味線の楽譜
引用元:じょんからドットネット
こちらが三線(沖縄三味線)で使用される工工四(くんくんしー)と呼ばれる楽譜です。
「合、乙、老、四」などの漢字で縦書きに表記された楽譜です。最近出版された教本の中には、五線譜も併記されたものもありますが、昔からある沖縄民謡は工工四で書かれています。
譜面の違いとは
解説しました通り、三味線の譜面の違いは記譜法の違いになります。
どの記譜法にも長所と短所がありますので、譜面が読めるようになりましたら好みの記譜法の譜面を使用するようにしてみて下さい。
続いては津軽三味線の楽譜の読み方を解説していきます。
津軽三味線の楽譜の読み方
津軽三味線には様々な記譜法がありますが、一般的な文化譜と家庭式譜の読み方を解説します。
文化譜の読み方
引用元:じょんからドットネット
文化譜は写真のように縦線と横線、英数字などで記譜されています。
縦線 | 小節 |
横線 | 糸 |
数字 | ツボ |
アラビア数字 | 指 |
下線 | 拍 |
こちらの表の専門用語を詳しく解説します。
縦線
写真の譜面を見てみると縦線が何本か記されていますが、これは小節の区切り線になります。
1マスが1小節で、拍は2/4拍子です。
※三味線は基本的に2/4拍子で記譜されます。
横線
横線は糸の数を表しています。
上段から三の糸→ニの糸→一の糸の順になります。
数字
この数字はツボと呼ばれており、ツボとは押さえるポジションを表しています。
ツボの位置は三味線の竿に貼られたツボシールと対応していますので、必ず覚えるようにして下さい。
アラビア数字
アラビア数字は糸とツボを押さえる指になります。
I=人差し指、II=中指、III=薬指となっています。
下線
数字に下線が1本ある場合は半拍、下線が2本線になっている場合は1/4拍(4分音符)になります。
その他の記号
こちらは三味線を弾く時の基本的な技術になります。
ス | すくいバチ |
ハ | ハジク |
◡ | スリ |
チ | ウチ |
文化譜の長所と短所
文化譜の長所は、ポジションの番号と勘所位置を1パターン覚えるだけで良いので、譜面に慣れるまで時間がかかりません。
そして三本の線がそのまま三味線の三弦に対応するため、視覚的にとらえやすく、ポップスアレンジや演歌など、馴染みのある曲の楽譜が多いです。
文化譜の短所は、五線譜に文化譜を書き込むには、まず文化譜の各ポジションと音程を覚えなければなりません。
更に調子(本調子・ニ上り・三下り)を変えて演奏する場合には、譜面も書き換えなければいけません。
家庭式譜の読み方
引用元:じょんからドットネット
家庭式譜は写真の譜面のように、漢数字や様々な記号で記された縦譜になります。
漢数字 | ツボ |
○ | 4分休符 |
△ | 8分休符 |
ゝ | オクターブ |
囲い | 1拍 |
家庭式譜の長所と短所
家庭式譜の長所は文化譜と同様にポジション譜ですので覚えやすことです。特にリズムを視覚的に把握しやすい上、各弦の書式が別々になっているので、五線譜にコンパクトに記入できます。
短所は文化譜と同様に五線譜に書き込むには、勘所と音程の対応を覚える必要があります。また調子を変えて演奏する場合には、譜面も書き換えなければなりません。
縦書きで特殊なリズム表記のため、そのまま五線譜に同じ形で書き込むこともできません。
口伝の仕方
三味線には「じょんから節」や「秋田船形節」など様々な節があります。しかし、これらの節の殆どには譜面が存在しません。
例えば津軽三味線で演奏される曲の多くに楽譜が無い理由は、津軽三味線のルーツにあると言われています。
津軽三味線のルーツ
目の不自由な旅芸人の大道芸として生まれ、盲目の人々が演奏をしていたため、曲を書き記すことができませんでした。
そのため、昔から津軽三味線の演奏技術は師匠から弟子に口伝で伝えられてきました。この伝統は今でも続いています。
口伝とは
節には譜面が存在しない場合が殆どですので、節は師範が演奏する節を聴きながら1音ずつ覚えていきます。
楽譜がなく口伝で曲が伝わる過程で、曲の節回しが変わってしまったり、曲自体が消えてなることも心配があります。
そのため近年は自動採譜装置で、節を譜面に起こすような試みも行われています。
自動採譜装置は100%正確とは言えませんが、これにより口伝ではなくても節を覚えることが可能になりましたので、そちらを参考にしてみるのも良いと思います。
まとめ
これまで解説してきたように、三味線には様々な記譜法が存在します。
使いやすい譜面を選ぶ
全ての記譜法を覚えることは大切ですが、現在は1曲に対し様々な記譜法で書かれた楽譜が販売されていますので、使いやすいものを選ぶと良いでしょう。
節を独学で覚える
そして三味線の最大の魅力は節の演奏です。節には譜面が存在しないものも多く、基本的に師範から口伝で教わる他に方法はありませんが、耳で音を拾って覚えることも不可能ではありません。
個人的には口伝よりも耳で音を拾う方法のほうが、細かいニュアンスまで意識がいくのでおすすめです。(特に節を演奏する際は両手のニュアンスがとても大切です)
激しくで速い節回しが特徴の津軽三味線も、何度も聴くうちに一つ一つの音が聴き取れるようになってきます。
これは難しそうに思えるかもしれませんが、音に意識を集中して何度も聴くことで、テンポが速く音数の多いメロディーも確実に聴き取れるようになります。
この方法で節回しを練習することにより、演奏技術だけではなく音感も良くなります。
更にニュアンスにも耳がいき演奏する際に「どのようにメロディーを弾くか?」を考えるようになりますので、表現力豊かな演奏ができるようになります。
譜面は曲を覚える際に非常に便利なものですが、できることなら曲は耳で覚え譜面は、その答え合わせに使うようにすると良いと思います。
この記事を三味線を演奏する時の参考にしてみて下さい。