半円「⌒」の中にドット「・」が付いた音楽記号を見たら、どのように演奏をしたらいいのかピアノ初心者は悩んでしまいますよね。そこで今回は、音楽記号から「フェルマータ」をご紹介します。
フェルマータは長さに関係する意味を持つ記号のようですが、演奏の際にフェルマータの長さをどのように生かしていくのか、演奏の仕方も合わせてチェックしていきましょう。
フェルマータ記号を理解すれば、曲の中に余韻や間といった静けさや緊張感、変化が自然と生まれてきます。練習曲が美しくもかっこよくもなるフェルマータに注目いていきましょう。
フェルマータの語源は?
フェルマータは、イタリア語のfermare(フェルマーレ)が語源とされています。
語源であるFermare(フェルマーレ)には「動いている人や物の動きを止める」の意味があります。
フェルマータの意味
フェルマータは、付いている音符や休符を見かけたら、基本的には『程よく伸ばす』の意味と捉えましょう。
動きを止めるが語源なのに意味は「伸ばす」?
先程、フェルマータの語源は「人や物の動きを止める」の意味があると説明しました。けれど、フェルマータの意味を見ると「程よく伸ばす」と示されていては初めて楽譜を見た方は戸惑ってしまいますよね。
実は、フェルマータは時代と共に意味が変化してきた記号なのです。
時代と共に変化したフェルマータの意味
時代と共に変化したフェルマータの意味を順番に見ていきましょう。
バロック時代のフェルマータ
1600年~1750年頃のバロック時代に登場するフェルマータは、楽譜で見つけた場合、即興(カデンツ)や曲のまとまりであるフレーズの終わり、曲の終わりの意味を持っていました。
フレーズの終わりを意味することで「曲の動きが止まる」イメージが持てるのはもちろん、フェルマータが示されたら即興(カデンツ)へと曲が変化するためにも曲の動きは一瞬止まる必要性が感じられますね。
以下の動画では、バッハの三声のシンフォニア第7番の演奏が見られます。曲中ではフェルマータは終始線の上に記述されており、まさにフェルマータの役割「終わり」が感じられる曲です。
古典派時代のフェルマータ
1750年~1820年頃の古典派時代に登場するフェルマータから楽譜で見つけた場合、程よく伸ばすの意味を持ちました。
特に古典派を代表する音楽家、モーツァルトのピアノソナタ第14番第3楽章の中に登場するフェルマータは「曲の動きを止める」と「程よく伸ばす」の意味を感じ取るのにピッタリの楽曲です。
ピアノソナタ第14番代楽章では、フェルマータは音符の上に付いてフレーズの終わりを印象付けたり、休符の上に付いて程よく伸ばし消えていく余韻によって、緊張や不安を誘う印象を演奏者にも聞く相手にも与える役割を果たしています。
フェルマータの演奏の仕方
例えば、四分音符を1拍で数える楽譜の中で「♩(四分音符)」にフェルマータが付いている場合は……
1拍で「タン」と弾くのではなく、「ターン」と長めに伸ばして弾くようにしましょう。
四分休符の場合は、1拍で「ウン」と休むのではなく、「ウーン」と長めに伸ばして休むようにしましょう。
フェルマータの形&形から見る弾き方の解釈
フェルマータは、地平線や水平線に沈む太陽の形と考えられています。
フェルマータの語源であるフェルマーレ(fermare)が「人や物の動きを止める」の意味を持つと考えると、地平線に沈む夕日を目にした切なさや感動といった気持ちも曲に合わせて込めてみるのもいいですね。
フェルマータは「バス停」の意味&弾き方の解釈
フェルマータは、イタリアでは「バス停」を意味します。バス会社を出発したバスは、終点までの区間、いくつかのバス停に停まりますよね。
バス停で待つ人の多い、少ないで停車時間が異なることを考えると、曲の中で見るフェルマータも曲を弾いている時の自分の緊張や聞いている人の様子で長さに変化をもたらすのもいいですね。
フェルマータの別名&弾き方の解釈
イタリアで、「バス停」の意味を持つフェルマータですから、当然別名があり、イタリアの演奏家は主に別名のほうで呼んでいます。別名「コロナ(corona)」。皆既日食時に見られる太陽の周りのうっすらとした冠をイメージすると、アッとびっくり、形で紹介した地平線に沈む太陽と別名が結びついてしまいましたね。
コロナの別名をイメージし、聞き手に驚きや衝撃を与える弾き方を工夫するのもいいですね。
フェルマータの種類
フェルマータの種類には以下の5つがあります。
- 半分の三角形(∧)が2つ重なりドットが描かれている「二重三角フェルマータ」
- 半分の三角形(∧)が1つとドットが描かれている「三角フェルマータ」
- 半円「⌒」にドット「・」が描かれている「半円フェルマータ」
- 正方形の1辺が欠けた(П)中にドットが描かれた「方形フェルマータ」
- 方形が2つに重なった「二重方形フェルマータ」
※「二重フェルマータ」、「二重方形フェルマータ」の言葉は実際にはなく、当記事にて名前をわかりやすく表現するために表記しています。
音楽教室や学校のテストでは、先生の指導される呼び方を参考にしてください。
フェルマータの種類別の意味と演奏の仕方
種類 | 英語名 | 意味 | 演奏の仕方 |
二重三角フェルマータ | very short fermata | 非常に短く伸ばす | 元の音符や休符の1.3の長さ分伸ばす。 |
三角フェルマータ | short fermata | 短く伸ばす | 元の音符や休符の1.5未満の長さ分伸ばす。 |
半円フェルマータ | fermata | ある程度伸ばす | 元の音符や休符の1.5~2倍の長さ分伸ばす。 |
方形フェルマータ | long fermata | 長く伸ばす | 元の音符や休符の2~2.5倍の長さ分伸ばす。 |
二重方形フェルマータ | very long fermata | 非常に長く伸ばす | 元の音符や休符の2.5~3倍の長さ分伸ばす。 |
間違えやすい演奏の仕方
フェルマータは『程よく伸ばす』の意味を持つ音楽記号のために、どれくらい伸ばしたらいいのか困ってしまったり、とりあえず伸ばしてしまい曲の持つ印象とは違う演奏をしてしまったりする間違え演奏を生み出す記号でもあります。
間違え演奏を防ぐポイントは?
曲に慣れるまでは1.5~2倍の長さで演奏する。
フェルマータが付いた音符や休符を上手に演奏するためには、最初のうちは音符や休符が示す長さの1.5~2倍の長さを目安に音を伸ばしたり音を止めたりしてみましょう。
小節の前後や曲全体を意識する
フェルマータが付いた音符や休符を上手に演奏するためには、記号が付いた音符だけに注目するのではなく、小節の前後や曲全体の印象を理解するのがポイントです。
フェルマータが付いている音符や休符の前後の音の流れであったり、曲全体の印象を始めにチェックしておくことで、フェルマータ記号が付いている音符をどれくらいの長さで弾けばいいのか、どのように音を鳴らせばいいのかというイメージを持って弾くことができますよ。
まとめ
フェルマータは、「程よく伸ばす」を意味する音楽記号でした。
フェルマータの種類「半円フェルマータ・三角フェルマータ・方形フェルマータ」から音を伸ばしたり休ませたりする長さが異なるので、楽譜の中で見つけた場合は長さを意識してみましょう。
基本的には、フェルマータを見つけたら記号が付いている音符や休符が持つ長さの1.5~2倍は伸ばす、休ませるようにしましょう。
そして、曲に慣れてきたら、小節の前後や曲全体の音の流れを意識してフェルマータが付いている音符や休符の長さを工夫するようにしましょう。
音楽記号フェルマータを意識して、美しい・カッコいい曲のイメージに仕上がるように練習してみましょう。