楽譜を見ていたら、このようなものが現れました。
スラーとスタッカートが両方ついているのです。
スラーは 音と音を切れ目なく、なめらかに演奏する
スタッカートは 1音1音短く切って演奏する
という意味ですよね。
意味の上では相反するもののような気がしますが
両方ついている場合は、いったいどう演奏したらよいのでしょう。
ここでは、
「スラーとスタッカートが両方ついている場合はどうする?」
「スラーが点線の場合は?」
など、記号とともに演奏の仕方を見ていきます。
目次
アーティキュレーションの種類と意味
曲をどのように演奏するか、
特に、音と音のつなぎ方や区切り方をどうするか、を示したのが
アーティキュレーション(articulation)です。
作曲家は自分が作った曲をこのように演奏してほしいという指示のため、
楽譜上に記号や用語を入れます。
基本的なアーティキュレーションの種類の種類とその意味をご紹介します。
スラー(slur)
音を結びつけて
音と音を切れ目なく「なめらかに」演奏します。
長いフレーズでは、レガート(legato) などの表記で示されることもあります。
スタッカート(staccato / stacc.)
音を短く切って
1音1音短く区切って演奏します。
長さは、もとの音の長さの 1/2 程度となります。
スタッカティッシモ(staccatissimo)
音をきわめて短く切って
スタッカートの音よりも、よりはっきりと音の頭も強めに演奏します。
スタッカティッシモ(staccatissimo)の「イッシモ」は
イタリア語の issimoで言葉のうしろについて、
きわめて、最も、の意味を表します。
長さは、もとの音の長さの 1/4 程度となります。
アクセント(accento)
その音を強く
はっきりと音の頭を強めに演奏します。
rf(リンフォルツァンド) fz(フォルツァンド)
sf(スフォルツァート) sfz(スフォルツァンド)などの
強弱記号で示されることもあります。
テヌート(tenuto)
音を保って
演奏するときは、ただ音を長く保つというよりは
1音1音に思いをこめて
という感じです。
これらをふまえて、スラーとスタッカートが両方あるとき
の意味と演奏の仕方をお教えします。
スラーとスタッカートが両方あるときの意味や弾き方はどうする?
スラー + スタッカート
はメゾ・スタッカート(mezzo staccato)です。
「メゾ」はイタリア語の mezzo (正しくは「メッヅォ」と発音される)で
たいてい言葉の前について、
中間の、適度に、の意味を表します。
スラーとスタッカートが両方あるときは
スラー(slur)の
音を結びつけて
音と音を切れ目なく「なめらかに」演奏する
スタッカート(staccato / stacc.)の
音を短く切って
1音1音短く区切って演奏する
の両方の指示を合わせて、
音を保ちつつ切り離して
1音1音をつなげつつ、区切って演奏します。
長さは、もとの音の長さの 3/4 程度となります。
次はスラーが点線になっているもの
について見ていきます。
スラーが点線の時は?
クラシックの楽譜ではあまり見かけない点線のスラーですが
これは、作曲者のオリジナルの楽譜「原典版」では
スラーは実線で書かれているからです。
学者や演奏家などの専門家が、よりよい演奏ができると
校訂・編曲の際に書き加えたスラーが点線のスラーです。
スラーやアーティキュレーションなどを
校訂者・編曲者が原典版の記譜と見分けられるように示したもので、
演奏者にこのように演奏したらいいのではないかと
演奏の仕方を提案しているのです。
また、点線のスラーは、管楽器でフレージングのアドバイスとして
使われることもあります。
- 柔らかいタンギングで、音が切れないように吹く
レガートタンギング、ポルタートで演奏する。 - フレーズを意識して吹き、
息が続かないときはこっそりブレスを取って
フレーズの最後まできちんときれいな音で演奏する。
2つのアーティキュレーション記号がついたものを
もう少し見ていきましょう。
テヌートとスタッカートが両方ついている時は?
テヌート と スタッカートが両方ついた
はメゾ・スタッカート(mezzo staccato)で
前に出てきた
スラー + スタッカートと同様に
音を保ちつつ切り離して
1音1音を長く保ちつつ、区切って演奏します。
長さは、もとの音の長さの 3/4 程度となります。
アクセントスタッカート
アクセントとスタッカートが両方ついた
は
アタックを強く、音を短めに
単に音を短くというだけでなく、音のはじめを強く(音量を上げる)演奏します。
アクセントテヌート
アクセント+テヌートが両方ついた
は
アタックを強く、その音をそのまま保つ
音のはじめを強く(音量を上げる)し、そのままあまり減衰させずに演奏します。
各楽器のスラーとスタッカートの演奏方法
スラーとスタッカートの付け方は各楽器により異なります。ここでは鍵盤楽器、弦楽器、管楽器での演奏方法を解説します。
ピアノ
ピアノの場合スタッカートは「鍵盤を叩いてすぐ離す方法」と「ペダルで弦をミュートする方法」があります。前者は音の余韻が残るスタッカート、後者は音の余韻が殆ど残りません。
スラーは「鍵盤を押したままにする方法」と「サスティンペダルを踏んだままにする方法」があります。こちらも音の余韻の違いがあります。鍵盤を押しっぱなしにする場合は、タッチの強さでスラーのかかり具合が変わります。
弦楽器
ギターは押さえた「弦を弾いた瞬間に離す方法」と「弾いた弦に左手を軽く触れて音を切る方法」と「右手のブリッジミュートをする方法」の3つの方法があります。どれも違うニュアンスなので欲しい音が鳴る方法を選んで下さい。
バイオリンのスタッカートはギターと同様に「弦を弾いた後に手を離す方法」と「弾いた瞬間に左手で弦に触れ音を止める方法」の他にピツィカート奏法という独特の方法があります。
ピツィカート奏法には、ニコロ・パガニーニが好んで使用した「弦を押さえる左手で弦をはじく」左手のピッツィカートがあります。バイオリン独奏曲の24のカプリースの第24番に登場することでも有名です。余談ですがパガニーニの連続ピツィカートを使用した、広範囲の音域を急上昇、急降下する高速アルぺジオはバイオリンを演奏する方は1度聴いてみると良いと思います。
続いてベーラ・バルトークが使用した「弾く際に弦を指板と垂直に強く引っ張って離して弦を指板にぶつける方法」があります。硬いアタック音の混ざったスタッカートで独特のニュアンスがあります。バルトークのピツィカートとグリッサンドをミックスした奏法が聴ける曲に「弦楽器と打楽器とチェレスタのための音楽」がありますので参考にしてみて下さい。
またバイオリンのスラーは「弓を引いたまま」にして弾きます。
管楽器
管楽器のスタッカートは「音を切る」のではなく「音を短く」して鳴らします。音符の長さを半分にして鳴らすイメージで演奏するのがコツです。
スラーは最初の音のみをタンギングします。音符がいくつか続く場合は楽譜に従い、タイの切れ目でタンギングをするようにします。タイの切れ目がない部分は音符が変わる部分で、軽めのタンギングをして音を鳴らしていきます。
スタッカートとタンギングのコツ
各楽器によりスタッカートはやタンギングの方法は異なります。基本的な奏法は身に付けるべきですが、楽器は「結果しっかり音がなっていればOK」です。
基本以外の方法で好みのニュアンスが出せれば、その方法で演奏しても構いません。
元々、奏法は発明された当時は基本的な弾き方とはかけ離れたものでした。
例えば先程、紹介したバイオリニストのニコロ・パガニーニは、現在では基本とされている奏法を披露したことで専門家から非難を浴びました。つまり奏法が生み出された当時は邪道と非難されても、音楽は今も昔も「良い音が鳴ればOK」という結果に行きつきます。
基本に拘りすぎず、音重視の弾き方でも良いので、やり易い方法を探してみるのも良いと思います。
まとめ
いろいろなアーティキュレーションを見てきました。
アーティキュレーションについて音のイメージとともにまとめてみました。
スタッカート(staccato / stacc.) |
音を短く切って 長さの基準は 1/2 | ||
スタッカティッシモ(staccatissimo) | 音をきわめて短く切って 長さの基準は 1/4 |
||
アクセント(accento) | その音を強く | ||
テヌート(tenuto) | 音を保って | ||
メゾ・スタッカート(mezzo staccato) | 音を保ちつつ切り離して 長さの基準は 3/4 |
||
アクセントスタッカート | アタックを強く、音を短めに | ||
アクセント+テヌート | アタックを強く、その音をそのまま保つ |
楽譜の記号でどう演奏したらいいのか、わからないこともありますね。
音楽記号を確認したり、
CDやインターネットの動画などで演奏を聴いて研究するといいですね。