楽譜によく出てくる速度標語、「andante(アンダンテ)」。
みなさんはアンダンテの意味や速さ、テンポを理解できているでしょうか?
また、「andante cantabile(アンダンテ・カンタービレ)」など、アンダンテを使った他の音楽用語もあります。
これらについても意味を理解しておくと、演奏の際に役に立つでしょう。
この記事では、アンダンテの意味や速さ、テンポについて説明します。
また、andante cantabile, andante con moto, andante mosso, andante espressivoなどアンダンテを使う他の速度標語についても解説していきます。
andanteの意味や速さテンポは?
アンダンテはイタリア語の「andare(アンダーレ)」という動詞に由来している言葉です。
andareは「行く、歩く」という意味で、英語の「go」に近いと言えるでしょう。
そこから転じて、アンダンテは「歩くような速さで」という意味で使われています。
歩くような速さでと言っても、だいぶ抽象的ですよね。
人によって歩く速さは違いますし、同じ人でもそのときの体調や気分によっても歩く速さは変わってしまいます。
そこで、速さを絶対的な数値で表せるのがメトロノーム記号です。
メトロノーム記号とは、楽譜の初めに示されている音符と数字の組み合わせのことで、アンダンテなどの速度標語と同じく速度を表すための記号です。
例えば上の図の場合、「1分間に四分音符が120個入る速さで」という意味になります。
ただ、そういわれても人間の感覚ではそのテンポは分かりにくいでしょう。
そんなときはメトロノームにこのテンポを設定すれば、「カチ、カチ・・・」とそのテンポを正しく規則的に刻んでくれます。
メトロノーム記号でいうと、アンダンテは一般的に「四分音符=63~76」くらいの速さを意味すると言われます。
とはいえ、絶対にこの範囲内のテンポでなければいけないというわけではありません。
速度標語は絶対的なテンポを決めるものではなく、演奏するときの速さのイメージを示すものです。
ですから、同じアンダンテでも解釈する人によって「歩くような速さ」には違いが生じるものなのです。
また、時代によっても速さの感じ方は少しずつ変わってきています。
昔の人よりも現代人の方が生活のリズムが速くなっているのです。
現代人の歩く速さは、作曲家が当時想定していた「歩くような速さ」よりもっと速いかもしれませんね。
アンダンテの意味や速さ、テンポは?
- アンダンテは「歩くような速さで」という意味
- メトロノーム記号では一般的に「四分音符=63~76」くらい
- 絶対的なテンポを示すわけではなく、解釈によって速さは変わる
続いては、アンダンテを使う他の速度標語について解説します。
andanteを使う速度標語の意味やテンポは?
アンダンテの意味や速さ、テンポについては理解できたでしょうか。
では次に、アンダンテを使う他の速度標語について意味を見ていきましょう。
andantino
andantino(アンダンティーノ)という速度標語を見たことがあるでしょうか?
アンダンテととても似ていますね。
これは「andante」に「-ino」という語尾が付いたもので、意味は「アンダンテよりやや速く」です。
この接尾語「-ino」には「小さい」という意味があり、人名にも付けることができます。
人名に付けたときは、「ちゃん」付けで呼ぶような愛称のニュアンスになります(「-ino」は男の子の名前に付け、女の子の名前には「-ina」を付けます)。
アンダンテに「-ino」をつけたandantinoを直訳すると「小さなアンダンテ」と言えるでしょう。
「小さなアンダンテ」というとアンダンテより遅いようなイメージを持ってしまいそうですが、逆の意味なので注意してください。
「アンダンテ(歩くようなゆっくりのテンポ)の度合いを減らす」という意味合いだと考えるとわかりやすいと思います。
andante cantabile
続いてはandante cantabile(アンダンテ・カンタービレ)についてです。
andante cantabileの意味は「歌うようにゆるやかに」となります。
cantabile(カンタービレ)というと、音楽を題材にした漫画「のだめカンタービレ」を思い出す人もいるかもしれません。
元はイタリア語の「cantare(カンターレ)」という動詞を由来としています。
cantareは「歌う」という意味の動詞で、そこからcantabileは「歌うように」という意味で用いられています。
cantabileという言葉自体は速さを示す速度標語ではなく、曲をどのような雰囲気で演奏するかを示した発想標語です。
ですが、これをアンダンテと組み合わせることによって、演奏の雰囲気とともにテンポについても言い表すことができているのです。
歩くようなゆったりとした速さで、歌うように表情豊かに演奏するとイメージすると良いでしょう。
ちなみに、音楽家であるチャイコフスキーが作曲した「弦楽四重奏曲第1番(作品11)」の2楽章は速度標語に「Andante cantabile」が用いられており、この2楽章のこと自体が通称で「アンダンテ・カンタービレ」と呼ばれています。
andante cantabileが楽譜に書かれていてどのように演奏すればいいかわからないという場合は、この曲を一度聞いてみるのもいいかもしれませんね。
andante con moto
続いては、andante con moto(アンダンテ・コン・モート)について説明します。
con motoは2語から成り立っており、con(コン)は「~と一緒に」という意味の前置詞です。英語で言うと「with」にあたります。
moto(モート)には「動き」という意味があります。こちらは英語で言うと「motion」にあたると言えるでしょう。
ですからandante con motoの意味は「歩くような速さで、動きをもって」となります。
「動きをもって」という言葉が付くことによって、「歩くような速さ」が落ち着いた歩みではなく生き生きと軽やかな歩みに感じられます。
テンポもアンダンテより少し速めのイメージになるでしょう。
andante mosso
次に、andante mosso(アンダンテ・モッソ)について説明します。
mosso(モッソ)はイタリア語の「mouvere(ムオーヴェレ)」という動詞を由来としています。mouvereは「動く」という意味で、英語の「move」にあたります。
この動詞を形容詞的に使っているのがmossoで、「躍動して、速さをもって」という意味で使われます。
これをアンダンテと組み合わせたandante mossoは、直訳では「速めのアンダンテ」となるでしょう。アンダンテよりもテンポを上げた速さで演奏しましょう。
andante con motoと少し似ていますが、それぞれの由来となった言葉は違うので別々に覚えておきましょう。
andante espressivo
最後に、andante espressivo(アンダンテ・エスプレッシーヴォ)についてです。
espressivo(エスプレッシーヴォ)は「表現豊かに」という意味なので、直訳では「歩くような速さで、表現豊かに」となります。
語源はラテン語の「exprimere」で、exは「外に」、primereは「押し出す」という意味があることから、心のうちに感じたものを外に押し出して(=表現して)伝えることを意味する動詞です。
英語で言うと「express」にあたるでしょう。
テンポはアンダンテより速い・遅いと明確に言い表せるものではありません。演奏者の表現の仕方によって「歩くような速さ」のスピードも変わるでしょう。
この記事で扱った速度標語を表にまとめます。
標語 | 読み方 | 意味 |
andante | アンダンテ | 歩くような速さで |
andantino | アンダンティーノ | アンダンテよりやや速く |
andante cantabile | アンダンテ・カンタービレ | 歌うようにゆるやかに |
andante con moto | アンダンテ・コン・モート | 動きを持ったアンダンテで |
andante mosso | アンダンテ・モッソ | アンダンテより速く |
andante espressivo | アンダンテ・エスプレッシーヴォ | 歩くような速さで、表現豊かに |
まとめ
この記事では、この記事では、アンダンテの意味や速さ・テンポ、アンダンテを使った他の速度標語について解説しました。
演奏する楽譜にこの速度標語が出てきた際にぜひ参考にしてください。
楽譜に出てくる標語はアンダンテ以外にもたくさんあります。しかし、それを今すぐに全て覚えようとする必要はありません。
自分が演奏するときに楽譜上に出てきたら、その都度調べて書き込んでおけばいいのです。
実際に演奏する方が、標語だけ丸暗記しようとするよりもずっと覚えやすいでしょう。
何より、丸暗記しようとすると勉強のようで音楽が楽しくなくなってしまいます。
まずは目の前の1曲1曲を楽しんで演奏することを大事にし、標語については少しずつ焦らずに覚えていきましょう。